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ケーススタディ

2015-09-24

グループ企業内の資本関係の整理

【前提条件】

甲社(存続会社)

業種:製造業

資本金:30,000千円

総資産:2,250,000千円

負債:2,000,000千円

純資産:250,000千円

株主:役員30%、従業員及び持株会38%、取引先20%、乙社12%

 

乙社(消滅会社)

業種:小売業

資本金:10,000千円

総資産:50,000千円(うち、甲社株式 30,000千円、議決権比率12%)

負債:30,000千円

純資産:20,000千円

株主:役員A100%

 

【整理スキーム】

甲社は非同族企業であり、甲社の次期役員に乙社の役員であり株主でもあるAが就任することとなった。

会社法上は、直接会社の株式を有していなくても、実質判定により、子会社か否かを判定する。甲社は乙社の株式を有していないが、Aが甲社の役員に就任することで、実質判定により、乙社は甲社の子会社と判定される。

会社法では、子会社による親会社株式の所有を禁じている(会社法135条1項)ため、乙社は相当の時期に甲社株式を処分しなくてはならない。

 

乙社は、これまで販売会社として長年事業を行ってきたが、市場の成熟により、近年、業績は下降傾向にあり、販売会社としての役割の再構築を甲・乙社で検討していた。

そこで、甲社が役員Aから乙社株式を購入し、乙社を100%子会社にしたうえで合併し、事業の再編を進めることとした。なおこれにより子会社による親会社株式保有という自体を回避することができるため、コンプライアンス(法令順守)の観点からも望ましいと判断した。

 

【留意点】

(1)乙社株式の取得価格

甲社が乙社株式を取得するにあたっては、公正な評価額で取得する必要がある。そこで、公認会計士による第三者評価を実施した。その結果、乙社株式は18,000千円と評価された。また、乙社が甲社の株式を保有しているため、間接的に自己株式の取得になることから甲社の株主総会決議で乙社株式の取得についての承認を得た。

(2)合併における留意点

1.税制適格要件(税務)

合併前に100%親子関係であるため、税制適格組織再編に該当し、帳簿価格での引き継ぎとする。ただし、繰越欠損金については引継ぎ要件を満たさないため、繰越欠損金は引き継がない。

2.合併時の受入処理(会計)

会計上も共通支配下での組織再編行為であるため、帳簿価格により、乙社の資産負債を引き継ぐことになる。

3.甲社が有する乙社株式の処理

会計上は自己株式として処理を行い、税務上は資本金等の減額処理として受け入れる。

4.株主総会の必要性

会社法上、合併を行う場合には株主総会特別決議が必要であるが、一定の場合には株主総会は不要である。

一定の場合とは、略式組織再編(親会社が子会社の90%以上の議決権を有している場合等)や簡易組織再編(対価が純資産の額の5分の1以下の場合等)である。

乙社は甲社に100%支配されていることから、略式組織再編に該当するため、乙社での株主総会は不要である。

甲社において、100%子会社との合併で対価がないため、簡易組織再編として甲社の株主総会は一見、不要と思える。しかしながら、簡易組織再編には、ただし書きがあり、「承継債務額が承継資産額を超える場合」には、株主総会でその旨を説明する必要がある(会社法795条2項1号)ため、以下の検討を要する。

 

承継債務額及び承継資産額

承継債務額とは、合併直前の負債と、合併直後の負債(対価で発行した社債を除く)の差額となる。

本ケースの場合は、合併直前甲社負債2,000,000千円と合併直後甲社負債(甲社負債2,000,000千円+乙社負債30,000千円-対価社債0円)の差額であるため、30,000千円となる。

承継資産額とは、合併直前の資産(対価を減額)と、合併直後の資産との差額となる。

本ケースの場合は、合併直前甲社資産2,250,000千円(甲社資産2,250,000千円-対価社債0円)と合併直後甲社資産2,252,000千円(甲社資産2,250,000千円+乙社資産50,000千円-甲社株式30,000千円-乙社株式18,000千円)の差額であるため、2,000千円となる。

以上から、承継債務額が30,000千円、承継資産額が2,000千円となり、承継債務額が承継資産を超えるため、甲社では株主総会が必要である。

 

(貸借対照表推移)
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2015年9月10日作成
作成日現在の法令にもとづき作成しています。