ケーススタディ
2015-10-05
役員報酬の返金・辞退と税務上の取扱い
【ケース】
1.業績が予想利益を達成できない見込であることから、いったん支給された役員報酬を返金した場合
2.業績が著しく悪化し、役員としての経営上の責任から、取締役会でやむをえず役員報酬を減額することとした場合
3.業績悪化を理由に、一部の役員や株主が役員賞与や配当金を辞退した場合
【スタディー】
1.株主総会決議に基づき適法に支給された役員報酬を返金する行為は役員から会社への私財提供とみなされるため、役員は給与所得となり、会社は受贈益を計上することになります。このように、給与所得とされた上で、会社は受贈益を計上するというのが一般的な考え方となります。
では、給料として受け取る前に役員から受取辞退の申し出があった場合はどうでしょうか?
この場合でもあっても結果は同じで、役員は給与所得となり、会社は受贈益を計上することになります。なお、給与所得の源泉所得税は、支払い時に徴収することとされており、支払とは当該支払者の支払債務が消滅する一切の行為とされています。そのため、事前に受取辞退の申し出があった場合には、辞退の申し出を受けたときが支払債務の消滅時期となるため、会社はそのときに源泉徴収することになります。よって、受取辞退により全額支給しない場合は、源泉所得税だけ受取辞退した役員から現金で徴収することになります。
2.役員報酬は定期同額給与(支給時期が一定の期間ごとで支給額が同額であるもの等)に該当する場合、損金経理が認められています。では、事業年度の期間中は、いったん決めた役員報酬は一切変更することができないのか?と危惧される方もおられると思います。
これについては、年度中途の減額改定であっても、経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(業績悪化改定事由)に該当すれば、改正前と後で同額であれば、それぞれ損金経理が認められることとなっています。業績悪化改定事由に該当するかどうかは、経営状態が著しく悪化した(法基通9-2-13)ことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ないような、客観的事情があることが要件となります。1.のように「業績が予想利益を達成できない見込であること」といった主観的な理由は認められませんので、取締役会決議のほかに、客観的な理由があることを説明できる資料を整備しておくことが重要となります。
なお、減額が業績悪化改定事由に該当しても、改正前と後で同額と認められなければ損金経理は認められないことになります。このような場合、1.と同様に返金(または辞退)した場合はどうなるでしょうか?
損金の額に算入されない未払給与(源泉所得税があればそれを控除した金額)については、一定の条件に該当する場合、会社の整理、事業の再建、業績不振を理由に、益金の額に算入しないことができる(法基通4の2-3)とされています。
また、法人が特別清算開始の命令や、再生手続き開始の決定を受けた場合など、事業不振のため会社整理の状態に陥り、一般債権者の損失を軽減するため、その立場上やむなく賞与や配当金等源泉対象となるものを辞退した場合には、源泉徴収をしなくてもよいとされています(所基通181~223共-3)。
この法人税と所得税の例外的な取扱いにより、役員は給与所得とされず、会社も受贈益を計上しない場合も出てくると思われます。
3.役員賞与や配当金は、一般的に定時株主総会で決議されます(例外はあります)。よって、役員賞与や配当金を株主総会等の決議後に辞退した場合は1.または2.と同様の取扱いとなると考えられます。
一方、株主総会決議に先立ち、会社の業績悪化を予想して事前に役員賞与や配当金の受取辞退の申し出があった場合はどうでしょうか?
役員賞与をいくら支給するかは原則的に会社の自由であり、役員賞与を支給しないと決議した場合、支給しない役員への所得課税や源泉徴収、会社の受贈益といった問題は生じないと考えられます。
また、配当金についても、株主平等原則が一部の株主に特別の取扱いをすることを防止するためのものであり、他の株主を害する行為ではないことから、配当しないことが同族株主間の贈与問題に発展しない限り、取り立てて税務上の問題は生じないと考えられます。
2015年9月10日作成
作成日現在の法令にもとづき作成しています。
本ケースと類似のケースであっても事実認定により取扱いが異なる場合があります