株式会社マネージメントリファイン

ご相談・お問い合わせは

tel:0647925610

メールはこちらから

お役立ち情報

2017-03-13

施行から1年、女性活躍推進法を振り返る

女性活躍推進法が施行されてから間もなく1年が到達しようとしています。本稿では女性の活躍の状況がどのようになっているか、今後どのように捉えていくべきか、お伝えしたいと思います。

 

(1)女性活躍推進法の施行状況
女性活躍推進法(以下、「女活法」)は、歴代の首相で初めて、「女性の活躍」を国会で謳ったことで注目されています。「一億総活躍」を実現するため、女性の地位向上や女性に多い非正規社員の処遇改善を図り、我が国の人口減少に伴う労働力不足の課題を女性の就業率の向上によりカバーすることが期待され、2016年4月1日に施行されました。この法律により、従業員301人以上の企業は、女性活躍についての行動計画を策定することを義務けられています(従業員300人以下の企業については、努力義務です)。
具体的には、企業内での女性の雇用状況(採用の男女比・継続勤続年数の男女比・年間の長時間労働・女性の管理職割合等)を把握し、女性の活躍に支障となっている課題を分析します。そして、改善するための行動計画をまとめ、行動計画策定届を労働局へ提出し、インターネット上で行動計画および女性の活躍状況を公表することが求められています。
厚生労働省がインターネット上で設置している「女性活躍推進データベース」 で多くの企業が、女性の活躍状況を掲載しており、特定の企業を検索して女性の雇用状況や時間外労働、有給休暇の取得上などを一覧で確認することができるようになっています。求職者にとっては会社の雇用環境がどのようになっているかを把握できるようになっています。
行動計画の提出件数は、平成29年1月末現在で、提出義務のある従業員数301以上の企業15,791社のうち、ほぼ100%にあたる15,771社の企業が提出しています。他方、提出義務のない300人以下の企業は2,276社であり、あまり浸透していませんが、厚労省の当初の目標2,000件を上回る結果となっています。

 

(2)女活法のねらい
女活法の成立背景には、我が国の人口減少問題の影響が大きいと考えられます。我が国の生産年齢人口(15歳~64歳の人口)は2015年時点で7,382万人ですが、20年後の2035年には、6,343万人に減少する と予想されています。減少する人数は、現在の東京都全体の人口1,362万人(2016年7月時点)に匹敵する規模です。
また、共働き世帯の増加 とともに、女性の働く割合は年々上昇しています が、我が国では、M字カーブと言われる現象があり、25歳~44歳までの世代で一旦女性の就業率は落ち込みます。出産・育児などの理由で一旦は退職される方が発生するためです。しかし、本当は仕事をしたいと考えている女性の方は約315万人存在する と言われています。女性の就業希望者を雇用することができれば、幾分か不足する労働力は賄えることになります。女性の活躍が期待される理由がここにあると思われます。
現に、人手不足で悲鳴を挙げている企業は少なくありません。筆者は、中小企業の支援のために、北陸地方から沖縄まで赴く機会がありますが、地方の企業ほど、求人難の苦しみは深刻であると感じます。求人募集広告を打てども効果がなく、他方、育児や介護によりフルタイムで働けない社員が出現し、不足する労働力の穴埋めをどうするべきかと悩んでいます。どの社員も欠かせない存在となっていて、育児・介護等で制約のある社員も活用し、力を発揮してもらえるような工夫をしていなければならない状況です。既に地方企業の経営者は日々苦心されていますが、やがて日本全体に広がる問題になると危惧しています。

 

(3)女性が活躍している企業
このような人手不足の中でも、なんとか工夫をして女性の活躍を実現し、成功を収めている企業があります。
三重県のある製造業では、もともと男性の職人が多かったのですが、人手不足で女性の工員を積極的に採用し、女性の技術者を戦力化するため、誰もが簡単に操作できる熟練技不要の「ダイヤモンド工具研削盤」を開発しました。また、社内「ものづくり道場」により、熟練技能を若い男女社員に伝承し、高品質なものづくり、新製品開発につなげています。作業プロセスも女性社員の気づきにより、簡素化・効率化が実現でき、それまで男性の職人が行ってきたやり方よりも短納期を実現できるようになりました。
石川県のある電気設備資材卸売業では、かつては「男性は営業、女性は事務」という性別による役割分担の意識が根強い企業でした。しかし、女性事務職員のうち、長年の勤務経験から、数あるアイテムについて、カタログを見なくても把握できるほど商品知識が多い方がいらっしゃいました。一般の営業職よりもはるかに豊富な知識です。このような能力を活かすため、提案型の営業部門を設け、女性社員を「電気設備資材のコンシェルジュ」として配置換えしました。女性ならではのきめ細やかな対応で評判もよく、業績を伸ばしています。その女性もやりがいを感じて意欲的に仕事をしているそうです。

 

(4)今後どのように女活を進めるべきか
女活法が求める行動計画については、大企業ではほぼ整備されており、今後は中小企業に浸透していくことが望まれます。
女性活躍を積極的に推進する企業のメリットとしては、「えるぼし」認定制度があり、認定を受けた企業はイメージアップに活用できます。「えるぼし」は1~3段階までの段位が用意されており、採用や長時間労働などの5つの要件を全てクリアすると最高位の3段階目の認定を受けられ、認定マークをホームページ等に利用できる仕組みとなっています。
また、「えるぼし」認定を受けた企業は、日本政策金融公庫の基準金利が最大△0.65ポイント引き下がることや、「えるぼし」認定の段位に応じ、公共調達において加点評価されるメリットもあります。最近、建設業界で、「えるぼし」認定取得に関心度が高まってきています。
他方、女活法の本来の主役である女性がどのように感じているかは重要な視点であると思います。「女性活躍推進」という言葉は、とてもきれいな言葉であります。ただ、女性活躍を労働力確保のための政策として捉えるとすれば、女性は本心から喜んではいないでしょう。
確かに行動計画を推進し、育休等の取得しやすさや女性管理職を増やす等、企業が働き方改革の一環として、経営方針の転換や制度構築に取り組むこと自体は、とても大切であると考えます。しかし、女性がやりがいをもって生き生きと仕事に熱中し、成果を上げ、新たな付加価値を生んでいくことが真の意味で女性の活躍であるでしょう。活躍する女性を適正に評価し、達成感を得てモチベーションを引き上げる努力をすることが企業に求められます。
その意味では男女問わず、よりよい職場を作ることは大切な価値観であると思います。女活法の取組みをきっかけに、働く皆様が生き生きし、明るい未来の見える職場づくりを進めていただきたいと願っています。

 

【プロフィール】
株式会社みらい人事労務サポート
代表取締役 杉森隆志(特定社会保険労務士・M&Aシニアエキスパート)
人事・労務管理のプロフェッショナル。「明るいみらいの職場づくり」を目指し、社内規程整備や業務効率化や残業・解雇問題解決を手がける。また、人材育成も展開し、採用・労務管理の整備に有効な助成金手続きの支援を行っている。
厚生労働省委託事業である女性活躍推進アドバイザー、育休プランナー、介護プランナーに選任され、多くの支援実績を有する。

 

女性活躍推進データベース URL:http://www.positive-ryouritsu.jp/positivedb/
総務省 平成26年版情報通信白書を参照
内閣府 平成26年版男女共同参画白書を参照
総務省 平成26年までの労働力調査を参照
内閣府 平成26年版男女共同参画白書を参照